ローカルメディアは誰に届けるのか。市民全員では届かないペルソナ設定

ベビーカーを押しながら街を歩く女性

ローカルメディアを始める前に」は、地域に向けた情報発信を一過性の更新で終わらせないために、立ち上げ前に考えておきたいことを整理するシリーズです。前回は、サイト名・ドメイン名・ロゴを立ち上げ初期にどう設計するかについて整理しました。

ローカルメディアを始めるとき、「地域の人みんなに読んでほしい」と考えるのは自然なことです。

けれども、読者を広く設定しすぎると、記事のテーマ、言葉の選び方、写真の雰囲気、紹介するお店やサービスの基準が曖昧になります。結果として、誰にとっても読めるけれど、誰にとっても強く必要とはされないメディアになってしまうことがあります。

ローカルメディアにおけるペルソナ設定は、読者を排除するためのものではありません。どんな暮らしをしている人に、どんな情報を、どのような温度感で届けるのかを明確にするための設計です。

今回は、地域メディアを「市民全員向け」にしない理由と、立ち上げ前に考えておきたいペルソナ設定について整理します。

「市民全員に届けたい」は、ローカルメディアでよくある落とし穴

ベビーカーを押しながら街中で立ち止まる女性

ペルソナとは、情報を届けたい相手を、たった一人の具体的な人物像として設定することです。

ローカルメディアを始めるとき、「地域の人みんなに読んでほしい」と考えるのは自然です。けれども、市民全員を対象にすると、子育て世帯、単身者、シニア層、地域で働く人、移住を考えている人など、読者像が一気に広がります。

それぞれの読者が必要としている情報も、読みたい文体も、写真に求める雰囲気も異なります。子育て世帯にとって必要な情報と、仕事帰りに立ち寄れる場所を探している人に必要な情報は、同じ地域の中でも大きく変わります。

また、対象を広げすぎると、届ける情報は行政、防災、交通、流行、イベント情報のように、幅広くなりやすくなります。それ自体が悪いわけではありませんが、発信の軸が定まらないまま更新を続けると、メディアとしての印象がぼやけていきます。

誰にでも当てはまるように書こうとすると、結果的に誰の具体的な悩みにも届きにくくなります。ローカルメディアで重要なのは、地域全体を対象にしながらも、最初に深く届ける読者像を決めることです。

ペルソナは読者を狭めるためではなく、届け方を具体化するためにある

鏡を見ながら笑顔を見せる女性

ペルソナを設定することに、抵抗を感じる人もいます。

たった一人の人物像に向けて情報を届けると、読んでくれる人が少なくなるのではないか。対象を広くした方が、多くの人に届くのではないか。数を打てば当たるし、母数は大きい方がよいのではないか。そう考えたくなるのは自然です。

けれども、情報発信で重要なのは、単純な母数の大きさだけではありません。大切なのは、その情報を受け取った人が「これは自分に関係がある」と感じられるかどうかです。

たとえば、シンガーソングライターが自分自身の過去の失恋を歌にしたとします。その歌が多くの人に届き、聴いた人が「これは私のことだ」と感じて涙する。書いた本人は、自分の恋愛を思い浮かべて歌詞を書いているにもかかわらず、聴く人はそれぞれの記憶と重ね合わせ、自分ごとのように受け取ります。

それは、対象をぼんやりと広げたからではありません。たった一人の具体的な感情や場面に向き合ったことで、言葉がリアルになったからです。

ローカルメディアのペルソナ設定も同じです。誰にでも当てはまる情報を並べるよりも、具体的な一人の暮らし、悩み、関心、行動範囲を思い浮かべて記事をつくる方が、結果として多くの人の共感や行動につながりやすくなります。

ペルソナは、読者を狭めるためのものではありません。情報の温度、切り口、言葉、写真、導線を具体化し、必要な人に届きやすくするための設計です。

ローカルメディアのペルソナは、年齢や性別だけでは決まらない

窓辺で笑顔を見せる白いシャツ姿の女性

ローカルメディアのペルソナを考えるとき、年齢や性別はひとつの手がかりになります。ただし、それだけでは十分ではありません。

たとえばRe:HIRAKATAでは、40代の働く女性を主なペルソナとして設定しています。けれども、重要なのは「40代」「女性」という属性だけではありません。子育てをしながらキャリアを磨き、精神的にも物質的にも豊かな暮らしを大切にする人。忙しい日々の中でも、地域のものごとに少し目を向け、自分や家族の暮らしをよりよく整えていきたい人を想定しています。

そのため、枚方市内の情報であれば何でも取り上げるわけではありません。淀川のヨシを使った「おてふきん」を販売するブランドを紹介するのは、地域資源を暮らしの中に取り入れる選択肢として届けられるからです。ニッペパークで開催された「平和の燈火」を取り上げるのは、地域のイベントを通して、日々の暮らしの延長線上で平和について考えるきっかけになるからです。里山に残る棚田や、そこで活動するNPOに焦点を当てるのも、身近な地域にある自然や活動に触れる入口をつくるためです。

同じ「枚方市内の情報」でも、読者像が変われば選ぶテーマは変わります。価格の安さや流行性を重視するメディアもあれば、子育ての実用情報に特化するメディアもあります。Re:HIRAKATAの場合は、暮らしの質、地域との接点、背景にある価値まで含めて届けられるかを判断基準にしています。

ペルソナを設定すると、記事にするもの、しないものの基準が生まれます。年齢や性別だけでなく、その人がどんな暮らしを望み、どんな情報に心を動かされ、どんな行動につながるのかまで考えることが、ローカルメディアの設計では重要です。

ローカルメディアの届ける相手を整理したい方へ

社会事業開発ACTIONでは、ローカルメディアのコンセプト設計、読者像の整理、記事テーマの設計、発信導線の見直しを支援しています。

「地域に向けて発信したいが、誰に届けるべきかが曖昧」「記事を書いているのに、読者や問い合わせにつながっていない」と感じている方は、お問い合わせフォームよりご相談ください。

次回は、ローカルメディアを立ち上げる前に行いたいライバルリサーチについて整理します。既存メディアや地域サイトの発信内容を確認し、自分たちがどの領域で価値を届けられるのかを見極めるための競合分析を考えます。


CONTENTS
ローカルメディアを始める前に考えたい、サイト名・ドメイン名・ロゴの初期設計
ローカルメディアは誰に届けるのか。市民全員では届かないペルソナ設定
ライバルリサーチで、ブルーオーシャンを見つける。ローカルメディア立ち上げ前の競合分析


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堀 寛未

社会事業開発ACTION代表。大阪府枚方市を拠点に、広報・ブランド設計・情報発信支援を行っています。ローカルメディア「Re:HIRAKATA」では、取材・記事制作・発信設計を一貫して担い、事業や地域の取り組みを、伝わる言葉と構成に整えることを得意としています。

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